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荒い呼吸音が、反響していた。
霜に覆われた、白い鉄格子。
冷たいそれに、縋る。
長い髪が肩から流れて、凍りながら流れる水のなかへ。
真白に息を吐き出す凍えた肺が、刃で傷つけられるようにひどく痛み、震える喉からはおかしな音が出る。
不意に、揺れた氷の霧の一部が、切れた。
顔を上げることのできないまま、霧を裂いたその靴先に、疲弊した視線を落とす。
心は凍り、いまにも裂けてしまいそうだった。
冷えきって感覚が失せた指先は、死人のそれのように青白く、気味が悪い。
声に出たかは知れないその言葉を、こちらのくちびるの動きで読んだのか、白い格子のむこうで静かに首を振る気配がした。
身体が砕けるのではと思うほどに、震える。
ふと霞む視界のなか、冷気の幕のむこうに現れた裾がちいさく赤く汚れていることに気付き、氷の息を喉に飲んだ。
声なく叫んだこちらを、白い霧のむこうから伸びた腕が、格子ごとむりやり抱き寄せる。
触れるな、と。
叫びたいのに、できない。
こちらを抱き寄せる不自然に細い手が、音が鳴りそうなほどに震えていた。
「外からの侵入者だね」
闇に沈んだ声音に、心の底から怯える。
「なにをしたところで、もう引き返せない。狂い咲いた花とて、いずれは色褪せ枯れゆく運命(さだめ)。なにをしようと、それは変えられない」
けれど、と自嘲する吐息が、弱々しい。
「誰にも渡したくは、ない」
聞きたくは、ない。
「わたしは……矛盾しているね」
耳をふさごうにも、強く抱かれていて手が自由にならない。
だから、そのまま意識を、
ふさいでしまう。
そして氷の檻のなか、深い闇に落ちる。
身体と心を閉ざす、凍てつく闇の眠りに。