痛みは、炎を生みだす。
 すべてを焼き尽くす、痛み。
 撒き散らす鱗粉は、痛みの破片。
 おのれの翅さえも、焼き尽くす。

 だから。

 閉じ込めてしまおう。
 氷の檻のなか。
 その魔法が、永遠に失われてしまわぬように。
 
 
 
 
 風が運ぶ、乾いた涙の匂い。
 嘆きの声に似る、風の鳴く音。

 高温の炎を翅に宿す蝶が、鱗粉を撒きつつ群れをなし、黒雲覆いかぶさる空を行く。
 まるで、その天(そら)に見えないはずの、青銀の星の河のように。
 死んだ珊瑚あるいは乾いた骨を堆(うずたか)く積み上げたかのように、闇のなか、青白く浮かび上がる方錐形。
 そこからつづく星の河は、遠く流れて離れゆくほどに細くなり、青銀から白金、白金から黄、黄から赤へと輝きを弱めていく。
 冷えた闇に熱を奪われ赤黒く変色した星は、凝縮し、固い地表に落ちて砕かれる。

 虚無に似る洞(ほら)に、風は運ぶ。
 祈りの残響、花の香りの赤い粉。
 
 

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