春風トロイメライ
ふわり。
硝子の欠片の煌めきと、淡く甘やかな匂い。 そして包み込むようなあたたかさとともに、今年も彼女はやってきた。 身に纏う薄紅色のワンピースの裾をおおきく広げ、ゆっくりと、舞い降りて。 彼女がやってくると、心が踊る。 ふわり、ふわり。 「こんにちは」 ひさしぶりだね、と微笑んで見せると、白い頬をわずかに染めた彼女は静かにうなずいた。 「待っていたよ、君がくるのを」 可憐な花が飾られた萌葱色の髪はやわらかく、伸ばした手指に触れる。 幼さを残す白い顔を寄せる彼女の吐息が、くすぐったい。 ちいさくあたたかい彼女を抱きとめると、身体の奥底から甘い水が湧き上がるようにして、手指の先から足の先までをやさしい痺れが伝う。 歌い出したいような、叫びだしたいような、歓喜。 「また君に会えて、嬉しいよ」 ふわり。 目尻に薄紅を差したしろい目蓋を閉じた彼女は、彼女がいない間の冷たい日々を耐えた身体を、その細い両の腕でしっかりと抱えた。 わたしのために綺麗に咲いて、と。 つぶやくようにちいさく言う彼女に、 「もちろんだよ」 そうして僕は、彼女のワンピースとおなじ色の歓喜の花を。 ふわり、ふわり。 おおきく広げた腕一杯に、咲かせる。 |