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「ジュリアン司祭さま!」
焼け焦げ破れた散々な法服姿で地上に戻ると、どよめきが起こる。
しかしそれにはなにも返さず、ジュリアンは飛びついてきたミラのちいさな身体を抱きとめた。
炎の魔物に喰われて焼け崩れていく『棺桶』が、目のまえ。
それを遠巻きに恐ろしげに眺めるだけで動かない人々のなか、熱く痛む目を、黙って閉じた。
つぎに会うそのときは、殺し合いだ。
そう言ったその声音は、どこか、楽しげにも聞こえた。
魔女の呪いを受けた吸血鬼は、つぎに会うそのとき、もはや以前の彼女ではないのだろう。
その瞳からは矢車草の青色は燃えてなくなり、血色の真紅の狂気が躍るのだろう。
自ら雁字搦めに巻き付けていた鎖から解き放たれた、血に飢えた魔物となって。
味見をした獲物のまえに、つぎは食い殺す気で現れる。
厭だ、と。
化け物にはなりたくはない、と泣いた彼女を救うためには。
祓うしか、ないのだろう。
けれどそれならば、いまのままではいられない。
いまの自分は、吸血鬼に到底敵うはずなどない、ひどく弱いただの餌でしかない。
ゆっくりと、ジュリアンは毒に焼かれた喉に手指をあてた。
自分も。
以前のままでは、いられない。