痛みの記憶 …… キリィ・ヴァンデイン


塔のなか、わたしはやがて訪れる朝に怯えていた。
まるい天窓から目を逸らすように、膝を抱えて。
悪魔であるおまえは、陽光に焼かれて灰となり滅びる。
そう、教えられていた。
手足に絡まる霜に覆われた冷たい鎖が、薄い皮膚を焼く。
滅びるのが怖いわけではなかった。
ただ、痛いのは嫌だった。
言葉を覚えてから理解した、浴びせられる罵詈讒謗には慣れた。
けれど、痛みにだけはどうしても慣れなかった。
焼かれると、痛い。
それは押しつけられたちいさな火で知った。
だから、灰となって滅びるほどに焼かれることが、怖かった。
怖くて怖くて、骨の浮く痩せた身体がどうしようもなく震えて。
逃げて、と。
過去に罪を犯したという、わたしに言葉を与えたひとが、扉を開け放ち。
鎖を断って。
わたしの青白い腕をとり。

だから。

白み始めた空の下、そのひとが胸に杭を打たれて冷たくなったとき。
わたしは痛みに、焼かれた。
青銀の焔はわたしを飲み込み、わたしの痛みを吸い上げて。

いまも、燃え盛る。
 
 

 

<炎精の蝶 目次>

 

inserted by FC2 system